2026-08-04 発行(読了 5 分)
実プロダクトのアーキテクチャ・使用例から AI 開発の現在地を週 3 回・1 号 1 テーマで深掘り
「とりあえずエージェント化」が合言葉のようになる一方で、Shopify や Ramp は複雑化したエージェント基盤を単一のエージェントループへ戻す判断を公表している。Anthropic 自身も、workflow と agent を『処理経路を誰が決めるか』という一点で二分し、まず単純な方から試すよう明言済みだ。流行りの構成を輸入する前に、自分のタスクがどちらの条件に当てはまるかを確認する動きが今週の複数の一次情報に共通していた。
Anthropic は自社の設計指針で、workflow を「LLM とツールが事前に定義されたコードパスに沿って呼び出される構成」、agent を「LLM が自らの処理とツール利用を動的に制御する構成」と定義している。前者には prompt chaining(逐次分解+検証ゲート)、routing(分類して専門処理へ振り分け)、parallelization(並列実行と多数決)、orchestrator-workers(中心の LLM が動的に分解・委譲)、evaluator-optimizer(フィードバックによる反復改善)という 5 つの具体パターンが並ぶ。
この切り分けが実務で効くのは、判断基準が「流行っているかどうか」ではなく「手順を事前に書き切れるかどうか」という一点に絞られているからだ。書き切れるタスクに agent を充てても、コストと遅延を払って再現性を失うだけの結果になる。
Shopify の Sidekick チームはツール数が 20 から 50 以上に増える過程で、システムプロンプトへ指示を積み上げる方式が破綻したため、必要な指示をツールの結果と一緒にその場で渡す JIT(Just-In-Time)instructions へ切り替えた。同時にマルチエージェント化は見送り、単一のエージェントループ(入力→判断→実行→フィードバック)のまま複雑なマーチャント業務に対応させている。Ramp が社内向けに作った agentic データアナリスト「Ramp Research」も同様に単一エージェント構成で、inspect column values, branch, and backtrack という人間のアナリストに近い探索的なツール利用を LLM 自身に判断させている。
両社に共通するのは、複雑さは実証されてから足すという順序だ。マルチエージェント化やオーケストレーション層の追加は、単一エージェントで頭打ちになったことを確認してからの手当てであり、最初から選ぶものではない。
一方で Anthropic 自身の Research 機能は、Lead Researcher が調査計画を立て、3〜5 体のサブエージェントを並列に立てて Web 検索を分担させるオーケストレーター・ワーカー構成を採っており、複雑な調査クエリで所要時間を最大 90% 短縮したと報告している。これは『読み取りが並列化できる、探索的で開放的なタスク』という条件が揃った場合の話であり、前節の単一エージェント推奨と矛盾しない。
顧客対応のような書き込みを伴う業務では、むしろ workflow と agent を組み合わせるほうが安定する。Intercom の Fin はメール対応において RAG ベースのエージェントが自律的に応答を組み立てつつ、ワークフロー側のトリガーで起動し、対応しきれない場合は人間のサポート担当へエスカレーションする設計を取っている。